緘黙な目撃者

 いつも通り教室の前で蹲るばかりでそこに入れずにいた。私は仕方が無いので、重たい足取りで屋上へと向かった。六階は遠くて足が縺れそうになった。

空は良い。全てを飲み込んでくれる。長い時間見上げていると、頭がクラクラして浄化された気分になる。

 程なくして、男の子がやって来た。こちらに一瞥をくれて、彼は迷い無く屋上から飛び降りた。

 こうして一つの終わりを見た。晴れ晴れとして澄んだ空気の今日は、確かに自殺日和だった。

 次に、カップルと思わしき男女が屋上のドアを開けた。給水塔の陰で、彼らは情事を始めた。嬌声を聞きながら、人間特有の自殺という行為と醜い動物的貪りの狭間にいた。これならよっぽど彼の方が人間らしい。

 さっき死んだ彼は何処に向かって飛んだのだろうか。勿論地面だなんて退屈な答えは持っていなかっただろう。屹度、火星辺りか。月では地球に縛られすぎる。水星は過ごすには厳しい。火星なら地球から解放されながら、なんとか暮らせる。

 男女の元に歩き出してみた。二人は驚きの表情で短い悲鳴を上げた。

 そして私は中指を立てながら、空へと溶けた。

0コメント

  • 1000 / 1000

Meli Melo

双極性障害患者の小説と病気のお話。